「東アジア情勢の変動とアベノミクスの影響」
「東アジア情勢の変動とアベノミクスの影響」 活動写真
日期:2014.11.26 | 單位:臺灣大學文學院日本研究中心
        

     

     

     

     
東アジア情勢の変動とアベノミクスの影響
日期:2014.11.26 | 單位:臺灣大學文學院日本研究中心、中華經濟研究院日本中心
東アジア情勢の変動とアベノミクスの影響
【專題演講】

テーマ:日本経済の立ち位置
發表人:下谷政弘(福井縣立大學校長‧京都大學名譽教授)
主持人:蘇顯揚(中華經濟研究院日本中心研究員)


要旨:
 バブル経済の崩壊から低迷を経験してきた日本経済は、現在、世界や東アジアの中でどのような立ち位置にあるのか。「アベノミクス」ははたして有効なのか。

 戦前からの歴史スパンで考察すると、日本は長らく東アジアで「独り勝ち」の果実を享受してきた。しかし、今や「成長の時代」を終えてしまった。成長を支えてきた要因が作用しなくなり、バブル崩壊後に起きた環境変化も大きかった。「失われた20年間」にさまざまな構造改革が行われたが、もはや新たな成長要因は見いだせない。少子高齢化による国内市場の縮小や生産年齢人口の減少問題が加速化し、地方経済の疲弊も深刻である。日本の経済社会の安定性は厚い「中間層」の存在によっていた。それが今日、非正規労働者の増大(格差拡大)によってむしばまれている。

 アベノミクスは「3本の矢」を放つことによってかつての「成長の時代」を取り戻そうとしている。しかし、本年4月の消費税増税によって目論見は狂いはじめた。これからの日本経済は、蓄積されてきた高い技術力を資本として、産業の高度化や新分野での技術立国を目指さねばならない。さらに、地方分権や地域社会の活性化に取り組むべきである。

 また、「アベノミクス」には隠された4本目の矢がある。「戦後レジームの見直し(憲法改正)」という危険な矢である。日本社会は東アジアの一員としての近隣の諸国から尊敬される国にならねばならない。これこそが今後の日本経済が目指すべき立ち位置である。
 
【議題一:安倍經濟學的機會與挑戰】

主持人:溫蓓章(中華經濟研究院第二所研究員)
テーマ:アベノミクスの挑戦
發表人:蘇顯揚(中華經濟研究院日本中心研究員)


要旨:
 1991年バブル崩壊後、「失われた二十年」と呼ばれる経済成長の停滞期に入った。1991年から2012年までの実質GDP成長率は年平均でわずか0.9%であったので、この期間は「ゼロ成長期」とも呼ばれる。「一度地獄を見た男」と言われた安倍晋三が、2012年12日26日に再び首相に就任した。安倍首相は、「リフレ政策(Reflation Policy)」という大規模な金融・財政政策を掲げ、大胆な金融緩和政策、機動的な財政政策、それに成長戦略からなる「アベノミクス」を実行した。アベノミクスが実施されて1年余りが過ぎ、円安・株高にともなう「資産効果」によって、GDPギャップのマイナス幅が縮小し、消費者物価上昇率がプラスに転じるという成果をもたらした。しかし、アベノミクスに反対する人たちは、アベノミクスは虚構であり、国民を「将来への期待」といった投機的思惑に依存させ、実体経済に大きな効果を及ぼさないと主張した。それにもかかわらず、多くの人は、日本経済を根本的な構造改革をしなければ、長期不況から脱出できないと考えている。

 「失われた二十年」は単に景気循環における景気後退局面という現象だけではく、産業の新陳代謝の停滞等によるTFP(全要素生産性)の低迷が要因だと思われる。アベノミクスは、「異次元金融緩和」の短期的な政策及び「新成長戦略」の長期的な政策を打ち出すことによって、「レジームチェンジ(Regime Change)」を行ったが、既得権益団体・政治団体からの圧力を受け、伝統、文化、思想に衝撃を与えたといった問題を抱えている。

 今後の日本経済の動向を見極める際に、安倍政権が長く維持するかどうかを考えるだけではなく、規制緩和、成長戦略の確実な実施、産業の新陳代謝の促進、そしてデフレ解消、給料の上昇、企業の資金調達の円滑化などを検討すべきだと考えられる。アベノミクスに反対する多くの学者・専門家たちは、金融・財政政策を批判したが、日本の構造改革に成長戦略が不可欠であるということには賛意を示した。それがアベノミクスの成功に最も重要な要素かもしれない。


テーマ:アベノミクスの日韓中小企業への影響―中小企業の海外進出を中心に―
發表人:黃完晟(九州產業大學教授)


要旨:
 本報告の課題は、日韓の中小企業の海外進出を中心に、アベノミクスの日韓中小企業への影響を検討することである。

 問題意識として、そもそも、このような課題を提示する契機は、グローバル化の時代における中小企業の大変革が始まっているからである。日本の中小企業は企業数、従業員数、生産額、付加価値額などで、長年減少してきて、今後も量的な減少が予想される。日本では、このような現象は歴史的に初めてのことである。韓国の中小企業は、今まで量的な増加を示してはいるが、その伸び率は鈍化していて、日本に似通ってる展開が見込まれている。

 他方、日韓の両国では、海外進出している中小企業が急速に増え、その影響がますます強くなり、産業空洞化が言われて久しい。その中で、中小企業性産業でグローバル的に展開する企業が出現し、例えば、ニトリ、ユニクロ、(IKEA)などのように展開している。さらに、家具産業では、世界の大手約200社が需要の大きな部分を占めている。そのような傾向は、ますます強くなりつつあるとみている。要するに、地域や国で一部の企業が寡占化する傾向が強まり、それによって、中小企業性産業での企業間関係等が従来とは異なる「新しい体制」が成立しつつある。

 そこで、従来の研究では、中小企業とグローバル化との関連で、何を如何に捉えようとしてきたのかが、関心事であろう。要するに、グローバル化の本質(市場拡大)と中小企業の本質(資源不足下の経営、社長力で補充)を捉えたうえで、現実を直視し、理論的な枠組みを提示したうえで、現状と展望を描いてきたのか、といえば、はなはだ不十分であるといえよう。

 本報告では、次の4つの分析視角を中心に検討したい。①中小企業がグローバル化・市場拡大を如何に捉えて、海外進出を行っているのか、企業の成長・大手企業・グローバル企業への成長を見越して、従来の中小企業経営の枠を超えての展開を試みているのか、それとも中小企業のままを維持するために海外進出を行っているのか。②海外進出した結果、経営規模増大、競争上の地位の変化、企業間関係・取引関係の変化、などが如何に変わっているのか。③海外進出した中小企業自身は、戦略と仕事の増加・変化と組織が如何に変化しているのか。④中小企業の海外進出によって、本国と進出先で、当該産業と地域経済に、どのような影響を及ぼしているのか。

 本報告では、まず、日韓の中小企業の全体像について基本的な統計を通じて吟味し、両国の中小企業の論点がどこにあるのかを明らかにする。そこで、大きな影響を及ぼしているのが中小企業の海外進出であることを突き止める。

 次に、中小企業の海外進出の実態の概略について政府系機関の調査資料・統計などを検討し、急速に増加する中小企業の海外進出の全体像を描く。さらに、それを体系的に理解するために、理論化・類型化を試みる。それは、具体的な個別の中小企業の海外進出を位置づけしやすく、理解しやすくする。最後に、統計と理論をベースに敷いて、上記の4つの分析視角に焦点を置き、具体的な事例を取り上げ、中小企業のグローバル化がどの位置で進められているのか、如何なる限界を抱えて展開しているのか、今後どうなるのか、などを議論する。

 結論として、日本の中小企業は、アベノミクスの下でも、企業数などの減少が 続き、グローバル化が進み、産業空洞化の現象、中小企業の両極分解が進み、要するに、中小企業の大変革が始まっている。それに対し、韓国の中小企業は、アベノミクスの影響で、日本への輸出と第3国での日本製品との競争において不利になるといわれているが、それより、日本の中小企業に似ていく「韓国の中小企業の構造的な問題」の克服がより大きい課題であろう。なお、新興国では、中小企業の急速な成長が進んでいる。要するに、グローバル化について、中小企業は如何に捉え、対応しようとするのかが中小企業の新たな課題であると考えられるのである。


テーマ:日本ASEAN(東南アジア諸国連合)経済関係から見たアベノミクスの国際的発展戦略
發表人:任耀庭(淡江大學亞洲研究所所長)


要旨:
 安倍政権の日本経済再生本部は2013年6月14日にアベノミクス第三の矢と言われる成長戦略を「日本再興戦略- JAPAN is BACK」と名付けた。産業競争力の向上を目的とした日本再興戦略は、三つのアクションプランによって構成されている。それは、日本の産業再生と雇用創出のための日本産業再興プラン、未来産業育成のための戦略市場創造プラン、そして経済の国際的な発展を支援するための国際展開戦略である。国際展開戦略の内容としては、戦略的通商関係及び自由貿易協定 (Free Trade Agreement/Economic Partnership Agreement, FTA/EPA)を構築して国際経済の統合を進め、官民一体による戦略的提携を通して農産物,インフラシステム、コンテンツ輸出を促進し、そして日本経済の持続的な成長を確保するための人材、資金を確保することが挙げられる。

 国際展開戦略において、ASEAN(東南アジア諸国連合)は重要な市場と同時に日系企業の成長基地でもある。安倍新内閣発足以来、閣僚たちが相次いで訪れており、首相本人も2013年11月19日までにASEAN10ヶ国を訪問している。安倍首相及び閣僚たちの度重なるASEANへの訪問は、ASEANとの経済関係の強化が日本再興戦略にとって重要な一環であり、アベノミクスにおけるASEANの重要性を表している。2012年9月11日、日本政府が尖閣列島を国有化してから、中国の反日ムードが高まり、日本製品に対する不買運動が度々起こり、現地日系企業の経営も打撃を受けた。安倍新政権はこの状況に対して、企業に対ASEAN投資を奨励した。対ASEAN投資は、グリーンフィールド投資の他、クロスボーダーM&Aも急速に増加しており、日本の企業が2013年に東南アジアの企業を対象に行った合併・買収(mergers and acquisitions, M&A)は99件と9,534億円までに上り、1985年以来最高の金額と件数であった。

 本報告は、21世紀以降、日本の自由貿易協定と海外投資の発展及びその要因から、アベノミクスが構想する日本とASEANの経済協力関係をまとめていこうと思う。日本と26の経済体系を対象に、国家貿易回帰分析の実証結果によって、日本にとってのEPA貿易効果は、EPA締約国の貿易創出効果、また非締約国が生み出した貿易転換効果であると証明した。日本とEPAを締結した国は、シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、ブルネイ、インドネシア、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー及び日本・ASEAN経済貿易緊密化協定(ASEAN-Japan Closer Economic Partnership, AJCEP)があり、その中でAJCEP締結国はASEAN10ヶ国である。13ヶ国の日本のEPA締約国検証対象の中で、ASEAN及びAJCEPは8ヶ国を占め、ASEANが日本の貿易創出効果にとってどれだけ重要な位置づけとなるか、言うまでもないだろう。

 対シンガポール、インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピンのASEAN5ヶ国の全産業に対する直接投資の成長要因を検討していく中で、本報告は次のことを実証している。地理上の距離、貿易総額及び開放性等の経済貿易相乗約数が39.73%、日本のEPA、AJCEPのFTA約数が22.08%、両国の平均GDP格差及びレート等の経済発展格差に関する要素が17.11%となっており、日本EPA約数が対ASEANへの直接投資が重要性を増している。対ASEAN5ヶ国の全産業に対する直接投資や両国のGDP積、貿易総額、開放性やAJECP等の要素は統計係数で正の値を示しており、それらの要素が強くなるほど日本の直接投資が促進されることを表している。GDP格差や距離等の要素は統計係数で負の値を示しており、それらの要素の効力が弱まるほど日本の直接投資が促進されることを示している。
 
【議題二:安倍經濟學的影響】

主持人:任耀庭(淡江大學亞洲研究所所長)
テーマ:円安と韓国企業の輸出競争力、東アジア製造業の分業ネットワーク
發表人:吳銀澤(育達大學應用日語系主任)


要旨:
 日本の安陪内閣は、いわゆるアベノミクスといわれる「政策は大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」を柱とする経済政策を実施し、大規模金融緩和によって、2012年下半期から日本は急激な円安と転じ、日本と多くの産業分野で競争関係にある、韓国経済・産業・企業への影響が注目されるようになった

 韓国銀行(2014)とKIET(2013)の分析によると、ウォン/円の為替変動と韓国輸出量の弾力係数の推定値は、2000年~2014年第二四半期の間は0.156で、2007年から2014第二四半期の間は0.093であると推定される。つまり、2000~2014年の場合、ウォン/円の為替レートが10%下落(ウォン高・円安)した場合、韓国輸出は1.6%の減少、その反面、2007~2014年の場合、0.9%の減少に止まると推定し、産業別には自動車と鉄鋼産業の輸出への影響が大きいと分析している。

 以上の分析結果を踏まえると、日本円と韓国ウォンの為替レートの変動による韓国の輸出の増減は過去の円安に比べて小さくなり、その影響も産業別に異なり、2014年現在、より限定的であると考えられる。それは円安による韓国企業への影響が以前と異なる様相を呈していることを示すものであろう。その要因については輸出の相対価格、企業の海外投資、日韓の分業構造、企業の競争力などが挙げられているが、本稿では東アジア製造業の国際分業ネットワーク、特に東アジアの貿易構造と主要産業の分業構造、日韓企業の協力と競争構造から試論的に解明することである。


テーマ:アベノミクス「第一の矢」による日本および台、韓産業への影響と政策的示唆
發表人:魏聰哲(中華經濟研究院第三所副研究員)


要旨:
 日本経済は1990年のバブル崩壊後、消費不振がデフレ及び失業率の上昇を招き、さらには経済成長率の低迷をも引き起こした。そのため、「失われた10年」「失われた20年」という呼び方が定着した。長期的要素の他、日本経済は「六重苦」といわれる問題に直面している。その「六重苦」とは、円高、高い法人税、自由貿易協定への対応の遅れ、労働規制、CO2排出量削減の強制、電力不足を指している。これら経済低迷の長期的や短期的な問題の解決をめざして、過去に自民党や民主党の内閣は幾度かにわたって為替介入を行い、円安を進めてきた。デフレの解決により段階的な日本経済復興を目指しているが、期待される効果はまだ得られていない。
  
 2012年12月26日、安倍晋三内閣正式が成立した。安倍内閣は、円安による大胆な金融緩和政策、機動的な財政政策および民間投資を喚起する成長戦略など「三つの矢」からなるパッケージ型の経済再生政策を打ち出した。これは「アベノミクス」といわれている。このような「アベノミクス」を通してデフレによる長期的な経済不振から脱出しようとしている。こうした経済政策(特に第一の矢)によって日本国内の「株高」、「輸出競争力の強化」や「為替利益」という即時的な経済効果をもたらした。しかし、日本産業へのマイナス影響と実際上の問題も浮き彫りになっている。円の急激下落によって日本企業の輸出競争力を高める一方、韓国と台湾などアジア近隣国の産業は、日本企業からの脅威も感じつつある。今回の報告は「アベノミクスの第一の矢」、「日、韓、台産業競争力」をキーワードとして日本経済の新しい動向を紹介し、台湾産業発展への示唆も提示する。
 
【議題三:安倍經濟學與台日合作策略】

主持人:魏聰哲(中華經濟研究院第三所副研究員)
テーマ:日台ビジネスアライアンスのフロンティア:台湾企業の対日投資事例
發表人:劉仁傑(東海大學工業工程與經營資訊系教授)


要旨:
 1990年代以降、日本企業と台湾企業が中国を舞台にアライアンスを組むことが多くなった。近年では台湾のユニークな優位性に基づき、必ずしも中国での活動を前提にしないアライアンスも現れている。たとえば、中国における販売ネットワークや生産工場に加え、効率的に量産を行う台湾企業のノウハウ、台湾における発達したサプライヤーのネットワークが日本企業から注目されている。アライアンスの成功条件については、日台企業間の信頼関係が非常に重要であると指摘できる。日台ビジネスアライアンスの歴史は長く、中国で提携事業をおこなっている日台企業の多くは、それ以前に台湾において長期交流の経験を持っている。しかし、近年では事前に何ら協力関係を持っていなかった日台企業が提携していくケースも目立ってきている。つまり、日台企業には比較的容易に信頼関係を構築できるという特徴があるといえよう。

 日本企業が台湾企業と組み、中国で製造を拡大するといった1990年代の構図から、さらに進んで日本企業と台湾企業の連携による技術力・経営力強化になるとわれわれは主張している。本報告はエレクトロニクスや工作機械のビジネス事例を踏まえ、日台ビジネスアライアンスの現状、とくに最近盛んになりつつある複数の対日投資事例について論じる。


テーマ:東アジアの新しい局面と日台協力の展望
發表人:溫蓓章(中華經濟研究院第二所研究員)


要旨:
 日台間における協力は民間レベルにおいては長い歴史がある。近年、アベノミクスの戦略である三本の矢によって、国内の製造業の環境が改善され、韓国、中国、ASEANなど東アジアの新しい局面が、民間レベルでの日台協力の動向に影響し、その低迷へとつながっている。しかし台湾企業は積極的に海外ニッチ市場の成長を追求しているため、台湾政府の立場から見て、もし既存の国際協力計画と、それに対応するサポート的な日台協力を結合、推進出来るのであれば、海外産業開拓収益の増加に有効であるだろう。
  
 本報告は近年の事例を分析し、日本政府が推進している国際協力の3つのモデルを検討し、より一層日台を結び付ける協力体制のあり分、新たな形態の二層協力構造の形成、その構造を基とした4種類の日台協力のタイプを提案していく。たとえ東アジアの新しい局面からの圧力を受けたとしても、この二層協力構造の下では以下の4項目が日台協力を促進させる原動力となる。その4項目とは、新技術領域において台湾が作り出した産品、医療看護の範疇における台湾企業の運営実績、台湾企業が持つ強みとなっている技術に関する経営能力、そして台湾政府がサポートしているベンチャーキャピタルと信用保証基金などである。本報告では、日台政府が新形態の二層協力を推進させることによって、それぞれが国際協力している産業収益の向上につながることを提唱し、それに期待している。