「台湾と東アジア日本研究の未来」学術論壇
「台湾と東アジア日本研究の未来」学術論壇 活動花絮
日期:2015.03.06 | 單位:臺灣大學文學院日本研究中心
        

     

     

     

     

     
「台湾と東アジア日本研究の未来」学術論壇議程表
日期:2015.03.06 | 單位:臺灣大學文學院日本研究中心
「台湾と東アジア日本研究の未来」学術論壇
 様々な領域での日本研究の発展、そして各国の日本研究人材の整合を促進すべく、台湾大学日本研究センターは2015年3月6日、台湾、中国、日本、韓国等の各日本研究のセンターの中心的存在である学者をお招きし、「台湾と東アジアの日本研究の未来」と題した学術論壇を開催した。各国における日本研究の現状や、今後の展望といった重要なテーマについて議論を交わすことで、台湾の日本研究がさらに活性化し、深まっていくことを期待し開かれたものである。
学術協定締結
 台湾大学文学院陳弱水院長の挨拶の後、台湾大学日本研究センターと京都大学人文科学研究所の学術協定調印式が執り行われた。この締結によって、台大日本研究センターと各国とのつながりがさらに強化されたことになる。調印式の後、京都大学人文科学研究所所長が、以下のような期待と激励の辞を述べた。

 まず、台大日本研究センターがこの1年絶えず行ってきた学術活動に対して、敬意を表したい。また、両校間での学術協定締結を大変光栄に思う。人文科学研究所は京都大学において最大の規模を誇る学術部門であり、現在各大学の研究所が採用している「共同研究」の形も、この人文研から始まったものである。私たちは共同研究という形が単なる研究者の集合体ではなく、互いの研究資源を共有するものとなることを望んでいる。現在、日本にはいわゆる「共同利用・共同研究拠点」があるが、この「共同利用」とは日本の各大学があらゆる研究資料を利用し、共同で研究できるようにしたものであり、「共同研究拠点」とは、日本全国から研究課題を集め、各大学で協力して研究を進めていく拠点のことである。私は、今後の研究の形はしだいに拠点化、ネット化していくと見ているが、台湾はまさにすばらしい地理的条件のもとにある。今回の論壇はこの点を体現しており、台大日本研究センターがここに国際交流の場を形成してくれればと思う。最後に、あらためて今回の論壇開催に尽力してくださった陳弱水院長と徐興慶教授に感謝の意を表したい。また、今後台大と京大が協力して学術交流を推進し、互いの人文学系の学術水準を高めていくことを期待している。
【基調講演】

講演者:山室信一(京都大学人文科学研究所所長)
テーマ:21世紀における日本研究の新地平-空間軸と時間軸の座標の中で
主持人:陳弱水(臺灣大學文學院院長)
概 要:

 日本研究が日本人のみによって担われるという時代は、遠い過去のこととなった。主に欧米の研究者によって進められたジャパン・スタディーズも、今や東アジアの研究者との応答なしには成立しなくなった。そして当然のごとく日本国外からの日本研究は、その課題や方法や担い手が時代の要請に応じて推移してきた。1980年代までは日本の封建制を近代化への桎梏とみるマルクス主義的立場と、それを否定して日本近代の内発性を封建制に求める近代化論の立場とが鋭く対峙していた。その背後には共産主義的革命路線とそれを否定するアメリカのアジア戦略との対立があったが、現在の日本では研究者自身が自ら政治的立場を自覚することは稀である。他方、冷戦の終結から4半世紀を経た現在、世界で最も体制間の競合が残っているのが東アジア世界である。そうした世界史的状況を睨みながら、東アジア世界において日本研究を国際的な共同研究として推進するための課題と方法をいかに設定すべきか。この問いを考えるためには、21世紀・東アジアという視点から、日本という時空間を時間軸と空間軸が交錯する座標のなかに置き直す作業が必要となる。それによって初めて外から与えられた課題と方法から解き放たれ、私たち自身の問題意識をもって人類の歴史に向けて発信していくことが可能となろう。

 それでは私たちが設定すべき時間軸と空間軸とは何か。それは古代・中世・近世・近代・現代という5つの時間層とグローバル・リージョナル・ナショナル・ローカルという4つの空間層とによって想定される時空間である。 そうした時空間を設定し、比較や連鎖という方法論を錬磨することによって、これまで私たちが自明の前提としてきた一国史的視点を相互に止揚する交流空間が確保されることになるはずである。こうした立場から日本研究の拠点化と国際的ネットワーク化、そして次世代研究者の育成という問題を考えてみたい。
 
【発表および討論 (一)】

主持人:范淑文(臺灣大學日文系教授兼 系主任)
発表者:劉建輝(国際日本文化研究センター教授)
テーマ:「帝国」とその外延への眼差し-近代日本研究の新たな可能性を求めて
概 要:

 近代日本についてしばしば「脱亜」と言われるが、日本はむしろ周辺国との協力関係においてこそ、近代帝国、民族国家としての立場を保てたのである。しかし従来の歴史学では、あたかも1つの前提のように、その出発点から「近代」、また「国家」を自らの思惟する枠組み、ないしは物差しとしているため、こうした周辺との互換かつ横断的な関連が必然的に希薄になっている。たとえそれを議論の俎上に載せたとしても、結局は植民地への工業化等の遂行を強調する近代化論になるか、さもなければ植民地への経済的搾取を強調する収奪論になるという、いずれも一方通行的なものに収斂されているのである。
 このような二分法的状況から脱するには、東アジア域内のこの200年の歴史(中華秩序の崩壊と近代日本の勃興)をもっとも体現できる「帝国」という時空間の単位を設定し、その構造の中であらためて近代日本およびその周辺国を見直す必要がある。これにより、いささかでもその両者間の互換的かつ横断的な関係を解明し、新たな近代日本研究の可能性を提示することが可能となる。
【発表および討論 (二)】

主持人:林立萍(臺灣大學日文系教授 兼日本研究中心副主任)
発表者:徐一平(北京外国語大学北京日本学研究センター主任)
テーマ:中国大陸における大学附置日本研究所の現状について-北京日本学研究センターを例に-
概 要:

 中国の日本研究機関には、2つの大きな系統がある。1つは日本語や日本関連の専攻が置かれている各大学の研究所であり、もう1つは中国社会科学院を軸とした政府諮問機関としての研究所である。
 近年、人材教育と研究領域の発展において、中国の日本研究に対する研究所の貢献がますます大きくなってきている。中国の日本研究機関の現状については、1997年(中華日本学会と北京日本学研究センター)と2010年(中華日本学会と南開大学日本研究院)の2回にわたって大規模な調査が行われた。その結果から、中国国内日本研究所の研究テーマの多くが人文社会科学領域に集中し、その中でも日本語、日本文学や日本文化関連の研究成果が突出していることが明らかとなった。
【発表および討論 (三)】

主持人:徐興慶(臺灣大學日文系教授 兼日本研究中心主任)
発表者:朴喆熙(韓国ソウル大学校日本研究所所長)
テーマ:東アジア日本研究者協議会への呼びかけ
概 要:

 東アジア地域の日本研究者も、互いのつながりを強化しなければならない。そこで、日本、韓国、台湾、中国、モンゴル、ロシアなどが参加する「東アジア日本研究者協議会」の設立を呼びかけたい。
 アメリカにはAAS(アジア研究学会)、ヨーロッパにはEAJS(ヨーロッパ日本研究学会)があり、東南アジアにも日本研究者のネットワークが存在する一方で、東北アジア地域では日本研究者の地域的ネットワークが未だない。日本研究を活性化させるには、人文科学や社会科学等の領域における交流ないし融合がますます必要になってくる。研究者にとって、同地域の他国の研究者が日本の現状をどのように見ているかを把握することは非常に有益であり、ゆえに東北アジアでも、日本研究者ネットワークの早期構築が求められるのである。既に学会や研究機関が数多くあるため、この件を推進していくのは難しいかもしれない。しかしそれでも、「日本研究者協議会」のような緩やかな組織を設立し、年1回の学術大会を行うという形であれば、それほど困難なことではないと考える。
【発表および討論 (四)】

主持人:曹景惠(臺灣大學日文系副教授 兼日本研究中心特約 研究員)
発表者:李康民(韓国漢陽大学日本学国際比較研究所所長)
テーマ:韓国の日本研究-現況と課題、そして研究方向の模索-
概 要:

 大学、研究所、学会等の研究インフラの現状についての検討を通して、過去40年間の研究の流れにおける現在の状況を位置づけたい。過去40年間、韓国の日本研究は右肩上がりの成長を続けてきた。2005年前後にいわゆる「安定した停滞期」に入ったのだが、昨年からやや不安な動きを見せ始めている。このような状況の下で、韓国の日本研究が必要とする問題意識は何か、また新たな研究方向を見出せるのかといった点について、自らの意見を述べたい。また、漢陽大学の研究活動についても紹介する。
【発表および討論 (五)】

主持人: 辻本雅史 (臺灣大學日文系教授 兼日本研究中心執行 委員 )
発表者: 上垣外憲一(大妻女子大学比較文化学部教授)
テーマ: 「勝海舟の東アジア観」と東アジアにおける日本研究
概 要:

 勝海舟を東アジア観の例として、東アジアの日本研究が向かっていくべき方向と進めるべき課題について述べたい。
 勝海舟は当時の日本において、もっとも有力な日清戦争反対論者であった。上垣外教授はその著作である『勝海舟と幕末外交』の中で、幕末期の対ロシア外交は「秘密外交」の形式が取られ、当時の政局に強烈な影響を及ぼしたと指摘している。勝海舟はロシアとも友好的であるのが大切とする一方、ロシアの領土拡張や南下政策等の侵略行為に際し、日清韓の連盟を組み共にロシアの脅威に立ち向かうべきと考えていた。その他、勝海舟は日中の経済面における協力関係の重要性にも触れていた。100年以上たった今でも、勝海舟の東アジア観はこの地域の現在の情勢に通用するものであると言える。これは彼が東アジアの地政学的な構図や、ロシア、イギリス、アメリカ、中国の勢力圏を正確に把握できていたことによる。当時の情勢と異なるのは、アメリカが当時イギリスが担っていた役割を引き継いだこと、そして北朝鮮と台湾の存在である。しかしこのような違いがあれども、勝海舟の東アジア観は東アジアにおける日本研究、中国研究、韓国研究の基本をなす地政学的認識として、今日なお参照すべき意義を持っていると考えられる。
 
【綜合論壇―台湾日本研究の未来発展】

主持人:太田登(前台湾大学日文系教授兼日本研究センター執行委員)
與談人:石原忠浩(政治大学国関センター助理研究員)
    甘懷真(台湾大学歴史系教授)
    佐藤將之(台湾大学哲学系教授)
    林泉忠(中央研究院近代史研究所副研究員)
    陳力衛(成城大学教授)
    黃蘭翔(台湾大学芸術史研究所教授)
    劉旭楓(中央研究人文社会科学研究センター副研究員)
    賴振南(輔仁大学日文系教授兼外語学院院長)

  
  
 多くの学者に参加いただいた総合論壇の時間では、「台湾日本研究の未来発展」というテーマについて、歴史、思想、国際関係等の角度からの白熱した議論が交わされた。その内容は、苦境、研究課題、発展方向の3つの方向にまとめられる。
  
1.日本研究が直面する苦境とその解決方法―歴史学と日本語教育における改革
 台湾の日本研究がぶつかる壁には、研究経費の不足や戦略的思考の欠如の他に、日本語教育や歴史研究のおける人材断層の出現がある。特に歴史研究では、明治以降の日本外交や植民地論点への偏りが著しく、近代以前の研究については日中関係や文化交流の領域に集中し、日本本土の歴史についての研究が少ない。中国や韓国と比べても、台湾は日本史研究における人材断層が深刻な問題となっている。台湾大学には関連のプログラムがあるが、他大学でも日本史や日本文化・思想の授業を増設し、この科目・分野への学生の興味を引き出すべきである。また日本の古文献資料を解読するために、古文の授業の設置も求められる。日本語教育は日本研究の第一歩であり、今後の大学の日本語教育については、参加の学者からもグローバル化という時代の風潮に合わせていくべきとの指摘があった。次の3つのポイントから日本語人材を育成するべきである。
  (1)教育を活性化させ、諸分野との結びつきを強める。
  (2)研究視野を広げ、学生の問題意識や客観的アプローチ、想像力を強化する。
  (3)世界を舞台とする専門家を育てる。社会が求めるのは、高度な学習能力と実践力を持つ人材である。
  
2.台湾日本研究の新課題―強味と「双方向性」
 台湾が植民地だったという背景から考えると、台湾は日本統治時代の日本語や日本語教育の領域において、資料の面では優位に立っていると言える。現在、日本語や教育関連史料の整理が急務となっているが、植民地時代の資料の整理は、思想史や概念史研究にとって大きな利益となる。特に近代の知識伝播において台湾はかなり重要な地位にあり、人の往来があっただけでなく、多くの書籍や言語も台湾経由で中国に伝わった。今後の研究課題は日本から台湾、台湾から中国という単一のパターンに留まるのではなく、台湾から日本という逆の伝播を見つけ出すことも大切であり、また文化・文明史におけるいわゆる「双方向性」も今後の重要な課題の一つと言えよう。
  
3.台湾日本研究の発展方向―東アジア史と国際地位から考える
 多くの学者が指摘するように、台湾日本研究はこの何年かでめざましい発展を遂げており、特に東アジア史と台湾史の両方で卓越した成果を上げている。また台湾の歴史は日本の近代と関連が深いため、若手日本研究者の研究領域も近代に集中している。台湾の中国史・台湾史研究に日本史の新たな論点が加えられた場合、台湾は東アジアの領域において大きく全体を総合する可能性があり、新たな中心的存在となるだろう。よって、この論壇で出された台湾日本研究が注意すべき点は次の3つにまとめられる。
  (1)中国史や台湾史といった他領域との対話を強化する。
  (2)研究視野を、現在あまり注目されていない日本の中世・古代史の範疇まで広げる。
  (3)海外との連結を強めることで、台湾日本研究の幅を広げ、かつ深める。

 その他、台湾の国際社会における特殊な地位について、中国と日本の国際競争も台湾日本研究の今後の新たな方向と発展に大きな影響を与える。特に中国の勃興以来、日本の東アジアにおける日本文化普及の動きはさらに積極的になり、またそれゆえ近年台湾国内では、日本研究センター設立の動きが顕著である。中国にとっては、いかにして日本に勝つかが今の主要課題となっているが、社会科学の面では中国日本研究の水準は台湾には未だ及ばないため、台湾日本研究がこのような国際情勢の下で更なる影響力を発揮することができる。よって台湾日本研究が新たな方向を設定する際、自らが置かれた立場を意識し、マクロ的思考を具えた発展戦略を立てなければならない。多くの学者が指摘したように、台湾日本研究人材の育成と増加は一刻の猶予もない課題だが、それと同時に、華人文化圏と東アジア、そして世界との接点としての台湾の日本研究センターの発展方向を確立することも、非常に重要である

 論壇では、参加した学者が台湾日本研究の発展について具体的な意見を出しただけではなく、現在の台湾日本研究が直面する困難な点についても触れた。また台湾が置かれている国際的な立場から考えると、今後発展していく日本研究は台湾、東アジア、ひいては世界の日本研究に貢献できると指摘された。これはこの論壇が台湾の日本研究センターに替わって、未来の方向性と希望を示したと言えるだろう。最後に、台湾大学日本研究センター主任徐興慶教授が感謝と今後への期待の言葉を述べ、今回の論壇は大盛況のうちに終了した。
 
【綜合討論】

主持人:辻本雅史 (臺灣大學 日文系教授兼本研究中心執行委員 )
議題一:東亞日本研究日益發展,臺灣該如何與海外機構合作?
議題二:在東亞日本研究的發展中,臺灣應扮演何種角色?