江戸後期儒学界の陽明学派には二つの傾向があった。一つは「行動的な陽明学派」、実際に勤王倒幕に関わった人々の流れ。もう一つは「道徳的実践の流れ」を示す陽明学者、彼らは「読書静思」に重きをおき、道のために潜思して心の問題を考えた(中村幸彦「近世後期儒学の動向」)。一般的には、行動派に属する陽明学者の方が注目を受け、幕末陽明学と言えば維新や革命など実際に関わったという印象が強い。
今回の講演では、「幕末維新陽明學者五子」の中の林良齋 (1808-1849)、東澤瀉(1832-1891)の二人を例に、陽明学のもう一つの側面「道徳実践派」が幕末の動乱期において社会の在り方に向き合ったときに、一人の学者としての生き様をどのように選んだかについて論じたい。