2期目以降の安倍晋三政権(2012~)は毀誉褒貶が激しい政権であるが、その外交・安全保障政策は、新たな法案成立や成果が続いている。これは、同政権が従来の政権とは異なり、政治的に敏感な政策を実現するための戦略と、政権運営の技術を習得し、それを発揮しているためである。それは以下のようにまとめられる。
第1に、積極的な金融・財政政策により高い支持率を確保し、予算編成時期を外して難しい立法作業を行っている。しかも、同時に幾つもの課題を進めるのではなく、国会ごとに、1つずつ重要法案を通している。
第2に、アジェンダを操作して、期待を低めにもっていき、最終的に妥協点を見いだしている。このやり方により、政権が主導権を握りつつ、公明党や維新の会などとの妥協を容易となる。2015年の終戦70周年談話についても、「お詫び」を入れるかどうかの主導権を自分で握り、最終的に無難な表現で妥協した。
第3に、柔軟に方向転換をしていることである。特定秘密保護法や新安保法制を通過させた後、安全保障に関しては逆に消極姿勢をとり、経済運営に専念した。また、南スーダンでのPKOに危険性があると判断して、撤退を決めた。
第4に、首脳外交へのこだわりである。ロシアのプーチン大統領との個人的な関係に見られるように、極めて積極的に各国首脳との信頼関係構築に力を傾注している。長期政権の担当者として、こうした個人的関係は、領土問題などのような困難な課題についても、粘り強い働きかけをしさえすれば、結果を出せるという考えを持っている。
このように、安倍政権は保守イデオロギー色が強いと一般に見られているが、最大の特徴は、柔軟性とプラグマティズムに基づいた統治技術にあるということができる。