講 題:テーマ:アベノミクスの日韓中小企業への影響–中小企業の海外進出を中心に–
發表人:黃完晟(九州產業大學教授)
本報告の課題は、日韓の中小企業の海外進出を中心に、アベノミクスの日韓中小企業への影響を検討することである。
問題意識として、そもそも、このような課題を提示する契機は、グローバル化の時代における中小企業の大変革が始まっているからである。日本の中小企業は企業数、従業員数、生産額、付加価値額などで、長年減少してきて、今後も量的な減少が予想される。日本では、このような現象は歴史的に初めてのことである。韓国の中小企業は、今まで量的な増加を示してはいるが、その伸び率は鈍化していて、日本に似通ってる展開が見込まれている。
他方、日韓の両国では、海外進出している中小企業が急速に増え、その影響がますます強くなり、産業空洞化が言われて久しい。その中で、中小企業性産業でグローバル的に展開する企業が出現し、例えば、ニトリ、ユニクロ、(IKEA)などのように展開している。さらに、家具産業では、世界の大手約200社が需要の大きな部分を占めている。そのような傾向は、ますます強くなりつつあるとみている。要するに、地域や国で一部の企業が寡占化する傾向が強まり、それによって、中小企業性産業での企業間関係等が従来とは異なる「新しい体制」が成立しつつある。
そこで、従来の研究では、中小企業とグローバル化との関連で、何を如何に捉えようとしてきたのかが、関心事であろう。要するに、グローバル化の本質(市場拡大)と中小企業の本質(資源不足下の経営、社長力で補充)を捉えたうえで、現実を直視し、理論的な枠組みを提示したうえで、現状と展望を描いてきたのか、といえば、はなはだ不十分であるといえよう。
本報告では、次の4つの分析視角を中心に検討したい。①中小企業がグローバル化・市場拡大を如何に捉えて、海外進出を行っているのか、企業の成長・大手企業・グローバル企業への成長を見越して、従来の中小企業経営の枠を超えての展開を試みているのか、それとも中小企業のままを維持するために海外進出を行っているのか。②海外進出した結果、経営規模増大、競争上の地位の変化、企業間関係・取引関係の変化、などが如何に変わっているのか。③海外進出した中小企業自身は、戦略と仕事の増加・変化と組織が如何に変化しているのか。④中小企業の海外進出によって、本国と進出先で、当該産業と地域経済に、どのような影響を及ぼしているのか。
本報告では、まず、日韓の中小企業の全体像について基本的な統計を通じて吟味し、両国の中小企業の論点がどこにあるのかを明らかにする。そこで、大きな影響を及ぼしているのが中小企業の海外進出であることを突き止める。
次に、中小企業の海外進出の実態の概略について政府系機関の調査資料・統計などを検討し、急速に増加する中小企業の海外進出の全体像を描く。さらに、それを体系的に理解するために、理論化・類型化を試みる。それは、具体的な個別の中小企業の海外進出を位置づけしやすく、理解しやすくする。最後に、統計と理論をベースに敷いて、上記の4つの分析視角に焦点を置き、具体的な事例を取り上げ、中小企業のグローバル化がどの位置で進められているのか、如何なる限界を抱えて展開しているのか、今後どうなるのか、などを議論する。
結論として、日本の中小企業は、アベノミクスの下でも、企業数などの減少が 続き、グローバル化が進み、産業空洞化の現象、中小企業の両極分解が進み、要するに、中小企業の大変革が始まっている。それに対し、韓国の中小企業は、アベノミクスの影響で、日本への輸出と第3国での日本製品との競争において不利になるといわれているが、それより、日本の中小企業に似ていく「韓国の中小企業の構造的な問題」の克服がより大きい課題であろう。なお、新興国では、中小企業の急速な成長が進んでいる。要するに、グローバル化について、中小企業は如何に捉え、対応しようとするのかが中小企業の新たな課題であると考えられるのである。
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