主持人:徐興慶(臺灣大學日本研究中心主任)
報告人:陳瑋芬(中央研究院中國文哲研究所研究員)
講 題:幕末明治期における概念の変遷―「自然」・「文明」・「哲学」を例として
本報告は、nature、civilization、philosophyの訳語の「自然」「文明」「哲学」を例として、三つの言葉の意味変化の過程を明らかにし、そういった新しい言葉がどのように近代の中国と日本の知識のコンストラクションを成り立たせたのかを考察する。
外国から輸入した新しい観念を従来の言葉で呼ぼうとすることは、新来の観念を旧来の観念に対比して理解することを意味している。二つの観念に多少の隔たりがあったとしても、その内容に多少の増減修正を加えられ、従来の言葉がそのまま新しい観念の名辞として受容されて定着した。新造語の「哲学」に対し、「自然」「文明」は既存の漢語の中から選択された訳語である。その三つの言葉はいずれも適切な訳語なので、新語として急速に広まり、中国へも逆輸入されるようになった。
報告人:藍弘岳(交通大學社會文化研究所副教授)
講 題:「開国」と儒教―会沢正志斎の経学、日本古代史論と「国体」論の創出
幕末知識人が唱えた「王政復古」は形式だけで、古代日本の律令国家体制に回帰するのではなく、「神武創業の始め」までに回帰し、祭政一致の体制を建てようとしていた。この背後には後期水戸学の「国体」論の影響が大きい。本報告は、会沢正志斎の「国体」論に関わる祭祀と戦争の部分に焦点を絞って、彼の経学とその古代日本史論との關係を考察した。
会沢は方法的に徂徠学を踏まえ、忠孝道徳の実践という観点から祭祀儀礼が持つ政治意味を論じている。さらに、会沢は古代日本史で経書に附会して解釈を行っているのみならず、逆に経書の知識(「漢土之教」)を古代日本史(「神州之道」)の解釈にも使っている。こうしたことによって、彼はある種の独特な言説(議論の方法)を発明し展開している。その言説は幕末思想家と維新官僚の背景的知識になり、それで復古的で文明に相応しい国家体制を創出したと考えられる。
報告人:張寅性(韓國首爾大學政治外交學部教授)
講 題:開国の論理と心理―横井小楠精読
横井小楠は『夷虜応接大意』において、「有道の国」は受け入れ「無道の国」は拒絶すべきという道義の有無に基づく応接の原則を提示した。『夷虜応接大意』を「有道無道」の普遍的原則に基づく国際平等観念を開国の論理として提示した先駆的テキストと捉え、横井小楠が普遍的道義観念を持ちだして鎖国論から開国論へと転じたというのは丸山真男以来の見解だが、それについては再考の余地があると考える。
『夷虜応接大意』『読鎖国論』「吉田悌蔵宛書簡」を見通すと、小楠が鎖国論から開国論への転換過程では、絶えず普遍主義的道義観念が働いていたことが判明する。その政策的転換は、鎖国空間においても既に普遍主義的道義観念が用意されていたために可能であった。また、『夷虜応接大意』における「有道無道」という道義的原則は、「夷虜」への強固な拒絶の心理から持ちだされたものであり、政治的レトリックとして機能した面もある。
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