主持人:太田登(前台湾大学日文系教授兼日本研究センター執行委員)
與談人:石原忠浩(政治大学国関センター助理研究員)
甘懷真(台湾大学歴史系教授)
佐藤將之(台湾大学哲学系教授)
林泉忠(中央研究院近代史研究所副研究員)
陳力衛(成城大学教授)
黃蘭翔(台湾大学芸術史研究所教授)
劉旭楓(中央研究人文社会科学研究センター副研究員)
賴振南(輔仁大学日文系教授兼外語学院院長)
多くの学者に参加いただいた総合論壇の時間では、「台湾日本研究の未来発展」というテーマについて、歴史、思想、国際関係等の角度からの白熱した議論が交わされた。その内容は、苦境、研究課題、発展方向の3つの方向にまとめられる。
1.日本研究が直面する苦境とその解決方法―歴史学と日本語教育における改革
台湾の日本研究がぶつかる壁には、研究経費の不足や戦略的思考の欠如の他に、日本語教育や歴史研究のおける人材断層の出現がある。特に歴史研究では、明治以降の日本外交や植民地論点への偏りが著しく、近代以前の研究については日中関係や文化交流の領域に集中し、日本本土の歴史についての研究が少ない。中国や韓国と比べても、台湾は日本史研究における人材断層が深刻な問題となっている。台湾大学には関連のプログラムがあるが、他大学でも日本史や日本文化・思想の授業を増設し、この科目・分野への学生の興味を引き出すべきである。また日本の古文献資料を解読するために、古文の授業の設置も求められる。日本語教育は日本研究の第一歩であり、今後の大学の日本語教育については、参加の学者からもグローバル化という時代の風潮に合わせていくべきとの指摘があった。次の3つのポイントから日本語人材を育成するべきである。
(1)教育を活性化させ、諸分野との結びつきを強める。
(2)研究視野を広げ、学生の問題意識や客観的アプローチ、想像力を強化する。
(3)世界を舞台とする専門家を育てる。社会が求めるのは、高度な学習能力と実践力を持つ人材である。
2.台湾日本研究の新課題―強味と「双方向性」
台湾が植民地だったという背景から考えると、台湾は日本統治時代の日本語や日本語教育の領域において、資料の面では優位に立っていると言える。現在、日本語や教育関連史料の整理が急務となっているが、植民地時代の資料の整理は、思想史や概念史研究にとって大きな利益となる。特に近代の知識伝播において台湾はかなり重要な地位にあり、人の往来があっただけでなく、多くの書籍や言語も台湾経由で中国に伝わった。今後の研究課題は日本から台湾、台湾から中国という単一のパターンに留まるのではなく、台湾から日本という逆の伝播を見つけ出すことも大切であり、また文化・文明史におけるいわゆる「双方向性」も今後の重要な課題の一つと言えよう。
3.台湾日本研究の発展方向―東アジア史と国際地位から考える
多くの学者が指摘するように、台湾日本研究はこの何年かでめざましい発展を遂げており、特に東アジア史と台湾史の両方で卓越した成果を上げている。また台湾の歴史は日本の近代と関連が深いため、若手日本研究者の研究領域も近代に集中している。台湾の中国史・台湾史研究に日本史の新たな論点が加えられた場合、台湾は東アジアの領域において大きく全体を総合する可能性があり、新たな中心的存在となるだろう。よって、この論壇で出された台湾日本研究が注意すべき点は次の3つにまとめられる。
(1)中国史や台湾史といった他領域との対話を強化する。
(2)研究視野を、現在あまり注目されていない日本の中世・古代史の範疇まで広げる。
(3)海外との連結を強めることで、台湾日本研究の幅を広げ、かつ深める。
その他、台湾の国際社会における特殊な地位について、中国と日本の国際競争も台湾日本研究の今後の新たな方向と発展に大きな影響を与える。特に中国の勃興以来、日本の東アジアにおける日本文化普及の動きはさらに積極的になり、またそれゆえ近年台湾国内では、日本研究センター設立の動きが顕著である。中国にとっては、いかにして日本に勝つかが今の主要課題となっているが、社会科学の面では中国日本研究の水準は台湾には未だ及ばないため、台湾日本研究がこのような国際情勢の下で更なる影響力を発揮することができる。よって台湾日本研究が新たな方向を設定する際、自らが置かれた立場を意識し、マクロ的思考を具えた発展戦略を立てなければならない。多くの学者が指摘したように、台湾日本研究人材の育成と増加は一刻の猶予もない課題だが、それと同時に、華人文化圏と東アジア、そして世界との接点としての台湾の日本研究センターの発展方向を確立することも、非常に重要である
論壇では、参加した学者が台湾日本研究の発展について具体的な意見を出しただけではなく、現在の台湾日本研究が直面する困難な点についても触れた。また台湾が置かれている国際的な立場から考えると、今後発展していく日本研究は台湾、東アジア、ひいては世界の日本研究に貢献できると指摘された。これはこの論壇が台湾の日本研究センターに替わって、未来の方向性と希望を示したと言えるだろう。最後に、台湾大学日本研究センター主任徐興慶教授が感謝と今後への期待の言葉を述べ、今回の論壇は大盛況のうちに終了した。
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